九州工業大学学術機関リポジトリ

国立大学法人九州工業大学

戦略的研究ユニット化促進プロジェクト

超伝導体の魅力

超電導の魅力「中・高校生の方にも超伝導体をもっと身近に感じていただきたい。」

 オランダの物理学者オネス(1913年ノーベル物理学賞受賞)は、1911年に水銀を冷やしていくと極低温(転移温度T = 4.2 K)で電気抵抗が突然ゼロになることを発見しました。その後、他の金属においても同様の現象(抵抗の消失)が見られ超伝導とよばれるようになります。電気抵抗は完全にゼロになるということは、閉回路にすると永久に電流が流れ続ける(永久電流)ことを意味します(図1)。超伝導体は外部磁場をかけても、内部に磁場を通させず排除するという性質を持っています。この現象(磁場の排除)はマイスナー効果(完全反磁性)と呼ばれています(図2, 図3)。永久磁石から発する磁力線が下にある超伝導体を避けて曲げられるため、磁石を反発力により浮上させることができます。また、超伝導体に穴をあけると、その穴を貫く磁束は磁束量子Φ0の整数倍に限られるという不思議な性質(磁束の量子化)が発見されました。この磁束量子の値は超伝導体によらずに共通で、プランク定数hと素電荷の二倍2eの比(h/2e)となっています。分母の2は超伝導状態では電子がペアになっている(クーパー対)ことを意味しています。2つの超伝導体に薄い絶縁層を挟んで電流-電圧特性を測定すると、電圧がゼロのまま流れる超伝導電流が観測されます。これは超伝導を担うクーパー対のトンネル効果(超伝導トンネル効果)による現象です。1962年にジョセフソン(1973年ノーベル物理学賞受賞)が理論的に予想しており、超伝導状態を量子力学の波動関数で表したときの位相が主役を演じる電磁現象です。
超伝導体のこのようなふしぎな性質は1957年に発表されたBCS理論によって巨視的なスケールで発現する量子現象として理解されています(バーディーン, クーパー, シュリーファー 1972年ノーベル物理学賞受賞)。

役に立つ超伝導体

超伝導体は、研究対象としても大変興味深いですが、さまざまな方面でその特徴を生かして実用や応用がなされています。電気抵抗の消失を利用して、超伝導体は損失のない送電ケーブル(図4)に使われています。また、電力を超伝導の閉回路に永久電流して蓄えるエネルギー貯蔵装置(SMES)も実用化されています。コイルに大きな超伝導電流を流すと強力な磁石(超伝導マグネット)(図5)になり、磁気浮上で高速に走るリニアモーターカー(図6)や病院で使われている磁気断層撮影装置(MRI)にも使われています。また磁束の量子化と超伝導トンネル効果を利用した超伝導量子干渉装置(SQUID)は高感度な磁束計として、心磁計や能磁計などの医療、産業および物質科学研究の分野で広く利用されています。銅酸化物高温超伝導体が発見されたことにより、液体窒素温度で超伝導現象が可能になり実用化がさらに広がっています。

転移温度の上昇と新しい超伝導体の発見

 オネスの水銀での超伝導の発見以後、様々な金属および金属間化合物において超伝導体が発見されました(図7)。高い超伝導転移温度Tc を有する物質の探索も精力的に行われましたが、1973年にNb3GeにおいてTc =23 Kが記録されてから長らくTcの更新が途絶えました。1986年にベドノルツとミュラー(1987年ノーベル物理学賞受賞)により、多くの研究者が予想もしなかった銅酸化物La-Ba-Cu-Oにおいて30K付近で超伝導転移があることが発見されました。それ以後、銅酸化物超伝導体がつぎつぎと発見され、飛躍的な転移温度Tcの上昇をとげたのです。翌年(1987年)にはYBa2Cu3O7でTcが90Kを越えて液体窒素の沸点(77K)より高温となったことで、応用への期待が広がりました。その後またたく間にBi系物質(1988年)でTc=110K、Tl系物質(1988年)で125K、Hg系物質(HgBa2Ca2Cu3O9)で134K(1994年)と記録が更新されました。現在、銅酸化物超伝導体での最高転移温度はHg系物質の15GPaの高圧下でのTc =153K (2013年)です。

銅酸化物超伝導体のほかにも、新しい超伝導体が見つかっています。金属間化合物においては、2001年に軽元素を含有する金属間化合物MgB2がTc=39 Kの超伝導体であることが、青山学院大の秋光氏のグループによって発見されました。さらに2008年には東京工業大の細野氏のグループにより、鉄とヒ素を含む化合物(LaFeAsO1-xFx)がTc=26 Kにおいて超伝導となることが発見されたのです。この鉄ヒ素系超伝導体は、銅酸化物超伝導体と同様につぎつぎと新しい物質群が合成され、Laサイトを他の希土類で置換された物質ではTc=55 Kまで上昇しました。

最近(2015年)では、硫化水素を150 GPa以上の超高圧下にすることにより超伝導転移温度が200 Kを超えるという報告がドイツの研究グループによってなされました。超高圧下での記録とはいえ、室温超伝導も夢ではなくなってきています。